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井門隆夫の業界裏情報タイトル
井門隆夫の業界裏情報タイトル

 

鵜の岬

 

ホテルを志す人なら、「年間平均客室稼動数98%」という数字が
どんなに常識を超えているものか、お分かりになるであろう。
58室ある客室が毎日57室売れて到達する数字、つまり、一日1室
しか売れ残りが許されないのだ。
それを、東京から90分、鹿島灘に面したのどかな国民宿舎が達成
し続けているのだから、驚きだ。
目の前の海岸には海鵜が舞い、
全国の鵜飼いに鵜を供給しているような、自然豊かな地にある宿が
である。

毎月一日、午前8時30分。8本ある回線の電話が一斉に鳴りだす。翌々月の予約の開始である。一回線あたり約200人の予約を受け付け、午後2時過ぎには1ヶ月分の予約がすべて埋め尽くされる。もちろん、電話は一回ではつながらない。「お話し中をあきらめることなく、何度もかけ続けるのがコツ」と鵜の岬宿泊経験者は語る。
毎日のように、「日本一の秘訣」を探ろうと宿泊関係者が鵜の岬を訪ねる。そして、多くの方が「これだけ立派な施設だからできるのだろう」とタカをくくって帰ってしまうのだ。何をかいわんや、鵜の岬は、エレベーターもないボロボロの鉄筋建物だった平成初期の頃も、すでに「日本一」だった。立派な施設は何も関係ない。
その秘訣とは、一朝一夕にはできない、地道な努力だった。
しかし、それこそ、成し遂げたときには他の追随を許さない宿を創り出す「ビジネスモデル」なのである。

稼働率日本一の秘訣。その答は「人」である。

玄関を入ると、若い女性職員が笑顔で迎えてくれる。子供には膝をつき対応している。
フロントの若い職員もきびきびしていて、気持ちいい。利用者の要望には親身に対応してくれる。この温かいサービスこそ、鵜の岬の最大の「強み」なのである。
職員数も多い。一方で、高い給与の天下り組が多く、厳しい経営を強いられている公共の宿は、押しなべて職員は少ない。
それに比べて、鵜の岬のような勝ち組の宿は、職員数も増え、サービス向上との好循環にはまっているのだ。
しかし、最初から多かったわけではない。売上げを安定させ、経費を抑え、利益を生み出したからこそ、職員や施設に再投資できるようになったのである。そう考えると、最初は、何ごともまず「利益」ありきなのである。

では、鵜の岬は、最初に何をして利益を生み出してきたか。その答は、三つある。

第一には、徹底した「サービス教育」である。何も奇をてらったものではない。入社すると基礎を徹底して教えられる。笑顔、態度、マニュアルの徹底、臨機応変な対応。それは、サービス業のプロとして、ひとつの資格を得る以上の価値を生み出す。
そして、職員個人の人生においても一種の糧となるサービス教育を、他の宿より徹底した。

第二には、「地元優先」の理念。職員は、必ず地元の高校から採用し、職員全員が地元に住民票を移した。
地元の行事には一同あげて参加し、会場も提供した。地元向けの商品も企画し、地元のお年寄りを招待し、地元に愛される宿作りを徹底してきた。その結果、地元の方々が、ことあるごとに(とりわけオフシーズンに)使ってくれ、遠方の親戚や知人に紹介してくれた。その積み重ねが、今の盤石のクチコミ営業につながったのだ。

実は、「徹底したサービス教育」と「地元優先の理念」は、ある相乗効果(ハッピーエンド)をもたらす。これこそ、「鵜の岬モデル」である。それは、若く笑顔のきれいな女性が地元同士で見初められていくのだ。その結果、常に若い職員が働く職場としての新陳代謝にもつながり、高齢職員の多い赤字公営施設との大きな差を生んでいるのである。

そして、第三の強みは、このビジネスモデルを作り上げた、「鵜の岬一筋」の支配人の存在である。若いころは、評判のよい全国の宿を泊まり歩き、サービスを自学自習したという。
この支配人こそ、鵜の岬の「日本一の秘訣」そのものであり、「宿は人が作る」という真実を体現しているといって過言ではない。

負け組の宿も目立つようになった昨今。「勝ち負けの違いは、人材育成・顧客育成の差にある」ということを理解、実践できる人材がいるかどうかで決まる。その中でも一番重要なポジションは、支配人である。
鵜の岬の支配人は、政府が百人決める「観光カリスマ」として、全国の支配人として唯一認定された。

誇るべき職業である「支配人」。

今、この「職人」が不足しているという。
言い換えれば、鵜の岬に続く「勝ち組モデル」を作り出す支配人が数多くいることが、日本の観光産業が復活のポイントとなるといって言い過ぎではない。

明日の日本を創る支配人、求む!




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